

あらすじ嘉麻戸七は伊予国のお代官である肱川守(ヒジカワノカミ)からの依頼をこなしています。最後の関所から出発して、ようやく門前に到着する嘉麻戸さん。そこには狐面(コメン)をつけた人物がいます。以下から物語が始まります。
香る。森の様相。剥き出しになった木肌の甘さと、濃淡をつけて鼻腔に運ぶ風。適当な冷感。
放熱。これが気持ちいいのは、秋がそうゆう設計を担っている。夕暮れの終わり。
夜の始まり。遂に辿り着いた。ドゴンッ-ド. ドゴゥン.ドッ—
木材、瓦、漆喰。
ゴィンドーゴィンドゴ—
金杭、木槌、木炭、石材。
結びを甘くしたつもりはないけど、ぶつかりあっては濁音を発する。今回の荷の音。聞き慣れないよね?普通なら牛車でもっとゆっくり運ぶから。

キギギッーー、ドッ。
特注の皮靴がきしむ音、土がドッと鳴く。轍に伸びている威圧を感じるような不自然な溝は、獣も逃げ出す足型の脅迫状。目的の場所が近づく。門前の提灯。そびえ立つ外門。見て取れるのは、格式の高い住居。その功績を讃えるように豪奢な門構え。—芋あるよね。
ー米。いやなんでも。それらが小さく見える距離から、
貿易御殿ー門前の中央、そこには、誰かが立っているのだと分かる。家主の貫禄。大柄な図体。顔は狐面(コメン)。ー肉か魚。
—うん。

嘉麻戸は男を見て、わずかに目を細めた。(依頼人か?いや、かなり待たせた。待てど暮らせどだったよね?これが徳川の輸送なら、棄却も足りえた、二刻できかぬ遅参。)ーなぜ待てた?
通りすぎた最初の関所の後──宛先不明の狼煙。記憶がよぎる。2点間で時差をつけた狼煙。(……計算が得意。)
ー男は今来た。そこには二人が緊迫した空気で相対する。「ご足労、いや見事。」
倒木のような重低音。
ほんのりと、だが深く低い声。「“依頼された物を、依頼された場所へ”。 それだけです」狐面の男は一拍考えた後、嘉麻戸に荷を下ろすように伝える。
ドッッッッ。
この量の土埃が舞う。のそっと手を伸ばした先には黒檀の材木。両の手でその場に立てた後、呟く。主張しない声色に変わると
「これは“建材”ではない。」
不思議と、よく聞き取れる声。「これは、いうなれば“封印”。
この柱は“この世にあってはならないもの”を閉じ込めるためのもの──そういう“意味”を持って運ばれてきた」七は瞬きひとつせず、目線だけで応じた。男は振り返り、七を見つめる。
(正確には、狐面の奥でそうしている事と捉える)「試していた。どんな理屈でも、“あり得ない場所”に“あり得ない重さ”を運べるかどうかを。
──その“意味”を運びきれるか。」七は、手ぬぐいで汗を拭う。
「ふぅう、大変だったな。」
山道には壮絶に抉り取られた足跡が残っている。「常軌を逸してる」
聞こえたのは本音。一見の価値。どころではない。と付け加える。「確証、裏打ちが取れて尚。
こんな馬鹿げた人間がいるものか」
まだ驚いている。任せたい話があるのだが、ここでは話せない。と前置き。「当面は伊予国から其の方を通じて“見る”事。」七は少しだけ首をかしげて、言った。
「見てもいいけど、先にお代になります」
ー魚と肉。酒もだ。狐面の下、小さく笑った気配がした。
「…狐面は覚えられるか。
その目が、“これは私だ”と覚えられるか?」時間にして一瞬。疑問に仮説が走る。
私の相貌失認症を?理髪店主からか。マドナはまだ笑って見てる。ご馳走が出れば、報酬の話が済めば、寝床があれば。これらは口に出さず
「うん。」
嘉麻戸は返答する回答をうけとった肱川公は、嘉麻戸を見据えた後、体を回して、門へ。
背中を見せる肱川は大きい。ともすると、黒衣を着せた船先に思える程。手を扉に押し当てて、開く。
その重厚な外門は、いとも簡単に開かれた。往来一直線に石畳が伸びる。
その道の先に見える庵。森に吸われていくような、
提灯の光。名前のない羽虫。
黒く落ちる仮面奥の瞳。
光の中浮かぶ鶴落の家紋。向けられている感情がわからないまま、嘉麻戸七は予備の思考を先立たせる。それは御仁の方から嘉麻戸に夕餉を提案される形。仕方がないですね?と許して、
有利に腹を満たした上で、
厄介なお願いごとには
丁重に断れる距離感を
理想的だと考える。ー彼奴は聡い。
ーマドナは休んでて。
